製品の価格設定の方法
価格弾力性なども考慮して価格に応じた需要を予測すると、それが価格設定の上限になります。一方、製品のコストを計算すると、それが価格の下限になります。それに競合他社の分析なども加味して、価格設定の方法を決めていますが、価格設定の方法は、いろいろあります。
一番基本的なのは、製品コストに一定の利益を含む額を上乗せする考え方です。これはコストに加算する額を英語でmarkupというため、「マークアップ価格設定」と呼ばれます。
しかし、それ以外にも価格設定の方法はあります。たとえば、「バリュー価格設定」。この方法はコストや流通を見直して、品質を落とすことなくより低価格を設定するものです。
バリュー価格設定の代表的なタイプに「エブリデイ・ロー・プライシング」があります。これは特売セールなどは行わず、文字どおり毎日、低価格にするというものです。
世界最大のスーパー・チェーン、アメリカのウォールマートが有名ですが、日本でもウォールマート傘下の大手スーパー西友がキャンペーンを行って有名になりました。
これに対して、特売セールでさらに低価格をつけるようなバリュー価格設定は「ハイ・ロー・プライシング」といいます。また 製品コストではなく投資額から一定の収益が上がるように設定すると「ターゲットリターン価格設定」になります。
顧客が感じる価値(知覚価値)を分析して決める「知覚価値価格設定」もあります。
その他には、競合他社の価格を基準に決める「現行レート価格設定」や競り(オークション)で決める「オークション価格設定」もあります。
まとめると……
マークアップ価格設定
製品コスト➕利益
バリュー価格設定
(エブリデイ・ロー・プライシング)
常時、低価格
(ハイロー・プライシング)
特売セールでさらに低価格
ターゲットリターン価格設定
投資額からの一定の利益がでるような価格
知覚価値価格設定
顧客が感じる価値を分析
現行レート価格設定
競合他社基準での価格
オークション価格設定
競りで決める
という感じです。
時に応じて別の価格設定することも
こうして価格設定しても、地域や時季などに応じて別の価格設定することが可能です。
たとえばセールなどでは一時的に、「販売型価格設定」と呼ばれる方法をとることがあります。
販売価格設定の代表は、いわゆる「目玉商品」です。特売日などに見かけたことがないでしょうか?ふだんならあまり安売りしない定番商品が、明らかに仕入れ値以下と思われる価格で売られていたりします。
これは、目玉商品で増えた客足が他の商品の購入にも向かい、店全体として売り上げを増やすことを狙った価格設定なのです。
仕入れ値を割った(ロス)商品がリーダーとなり、全体の利益を上げるので、販売型価格設定のうちでも「ロスリーダー価格設定」と呼ばれる価格設定です。
このように価格設定の方法は1つでなく、1度決めたら変えられないというものでもありません。いろいろな価格設定の方法を知っておいて、柔軟に考えることも必要でしょう。
消費者の心を動かす「心理的価格設定」のしかた
消費者はさまざまな購買心理を持っているので、その心理に働きかける「心理的価格設定」が必要です。それほど体系的に整理されているわけではありませんが、例えばつぎのような心理的価格設定があります。
まず、よく見かけるのが「端数価格」。おなじみの198(イチキュッパ)や298(ニイキュッパ)などのことですが、たしかに安く感じさせます。
逆に、高いと思わせたい価格設定もあります。たとえば、高級ブランド品や宝石、貴金属といった製品では、自分で商品の価値を判断できる消費者が少ないものです。そのため、価格が価値の目安として受け取られます。
「名声価格」は、それに対応してあえては端数などをつけず、堂々と高いと思わせる価格設定をするのです。次に、消費者の選びやすさを狙ったのが「段階価格」。要するに、うな重の松・竹・梅を想像すればよいでしょう。価格に段階を設けて、予算に応じた選択をしやすくするものです。丼ものの大盛・特盛・メガ盛りなどもこの1種ですね。
次の「慣習価格」というのは、たとえば駅売店で売られているガムや缶コーヒーなどの価格設定です。これらは以前からの習慣で、消費者はその価格を当然と思っています。
そのため、わざわざ安いものを探すような購買心理は働かず、多少の値下げをしても売れ行きに大きな影響はありません。ただし、値下げをすると従来の慣習から外れてしまうので、売れ行きが減ることがあります。
この値段なら売れる「ブレーク・ポイント」
もう1つ注意しておきたいのは、価格設定と売れ行き(需要)の関係が必ずしも連続的ではないということです。ある価格設定をすると、爆発的に売れ行きが伸びるというポイントがあるのですが、これを価格の「ブレーク・ポイント」といいます。
たとえば、「ワンコイン・ランチ」をうたうお店が数多くあります。もし、同じランチを520円で出すお店があったら、売上の差は差額の20円以上のものがあるに違いありません。わずかな差のようでも、ブレーク・ポイントを割った場合と割っていない場合では、大きな差になることでしょう。
低価格を追求していくと、しまいには無料になります。それでは利益がでない、価格戦略にならない、と思うかもしれませんが、そうでもないです。近年、スマホなどで「無料」のオンラインゲームなどが人気なことはご存知でしょう。
無料=フリーについては、アメリカの雑誌編集長だったクリス・アンダーソンが、著書で「フリーミアム」という用語を紹介して話題になりました。
フリーミアムとは、「フリー(無料)」と「プレミアム(割増料金)」を組み合わせた造語で、無料のサービスと有料のプレミアム・サービスを組み合わせたビジネスモデルを意味します。
たとえば、オンラインゲームをプレーするのは無料だが、そのゲームをより楽しめるプレミアム会員登録は有料、といった具合です。
一般のビジネスでも「無料」はむしできない
従来、無料でサービスを提供するビジネスモデルは、広告収入で成り立たせるのが一般的でした。検索大手のグーグルもそこからスタートしていますし、古くは民放のテレビ放送なんかもそうです。
しかしフリーミアムは、無料サービスでユーザーを増やす一方で、特別な機能や扱いを求める一部のユーザーを有料とし、そこを収益源とするのです
。インターネットの時代の新しいビジネスモデルといえるでしょう。
というのは、インターネット上のビジネスでは、顧客1人あたりのランニング・コスト極めて低いからです。
ネットを利用したサービスは、100人に提供しても1万人に提供してもコストがほとんど変わりません。ですから、多数の無料ユーザーにサービスを提供しても、一ぐの有料ユーザーからの収入だけでコストをまかない、ビジネスとして成り立つのです。